ヘルペスとは

“ヘルペス”と聞くとなんだかコワイ病気、たとえば性行為でうつる大人の病気といったイメージを浮かべる人は案外多いのではないでしょうか。ところが、そうではないのです。ヘルペスは皮膚や粘膜に水ぶくれのできる一般的な病気で、赤ちゃんやこどもにも深い関係があります。というのも、実は成人の大半が、乳幼児期にこのヘルペスの原因となるウイルスに感染しているのです。ただ、初めて感染したときに何も症状のあらわれないことが多く、ほとんどの人は、知らない間にこのウイルスに感染しています(これを不顕性感染と呼びます)。


☆原因
ヘルペスは、かぜやインフルエンザなどと同じように、ウイルスが原因となって起こる感染症です。ヘルペスウイルスにはいろいろな種類があり、それぞれ異なった病気を引き起こします。下の表は、主なヘルペスウイルスの仲間とその病気について、まとめたものです。また、ここでいうヘルペスウイルスとは“単純ヘルペスウイルス”のことを示します。

主なヘルペスウイルス 病   気
 単純ヘルペスウイルT型  口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、
 ヘルペス性角膜炎、カポジ水痘様発疹症、
 ヘルペス性脳炎
 単純ヘルペスウイルU型  性器ヘルペスなど
 水痘・帯状疱疹ウイルス  水痘、帯状疱疹
 ヒトヘルペスウイルス6型  突発性発疹症

 ◆ヘルペスはうつる病気です◆
ヘルペスウイルスは感染力が非常に強く、直接的な接触以外にも、ウイルスのついたタオルや食器などを介して感染することがあります。ですから、親子や夫婦など親密な間柄でうつりやすい病気ともいわれています。また、このウイルスは、全く症状のない健康な大人からも、排泄されていることがあります。ヘルペスウイルスは一度人の体の中に入るとその後もずっと体の神経節に住みつくという特徴がありますが、ときに、唾液などに出てくることがあるのです。ですから、知らず知らずのうちに、お父さんやお母さんがこどもにうつしていた、という場合も多いのです。でも、だからといってあまり神経質に考えることはありません。私たちは、昔から口移しで赤ちゃんに離乳食を与えるなど、このウイルスを代々引き継いできたと考えられるのですから。


 ◆一度なおっても再発します◆
体の中にヘルペスウイルスが入り込むと、病気の症状がおさまっても、ウイルスは私たちの体の中の神経節にひそんでいます。そして、体の抵抗力が落ちたときなどに、再びあらわれて悪さをはたらくのです。かぜで熱を出した後など、唇のまわりにポツポツとあらわれる“熱の華”を経験したことはありませんか?実は、その多くがヘルペスウイルスの再発によってあらわれる、口唇ヘルペスという症状なのです。一般に“ヘルペス”と呼ばれているものは、ほとんどがこの再発型です。



☆症状
【ヘルペス性歯肉口内炎】
ヘルペスウイルスに初めて感染しても、ほとんどは症状があらわれず、乳幼児で症状があらわれるのは10%前後といわれています。ヘルペス性歯肉口内炎は、乳幼児に最も多くみられる、ヘルペスの初感染の病名です。症状として、急に39度前後の高い熱が出て、口の中に潰瘍ができ、炎症を起こします。歯ぐきも、少しさわると出血するほど真っ赤に腫れあがり、強い痛みで、ものが食べられなくなることもあります。乳児の場合は脱水症状を起こしやすいため、症状が重い場合は、入院して点滴治療をする必要があります。熱が下がって口内炎の症状がおさまるまでは、1週間〜10日近くかかります。一度かかると二度とかかりませんが、その後、口唇ヘルペスという、唇周辺に水ぶくれのできる病気を起こすことがあります。


【その他のヘルペス】
ヘルペスは口唇や口腔内だけではなく、鼻や眼のまわりなどにもあらわれることがあります。このような顔部のヘルペスでは、乳幼児の場合は特に、眼の周囲に気をつけなければなりません。というのも、ヘルペスウイルスが眼のなかに入ると、ヘルペス性角膜炎を引き起こす危険性があるのです。ヘルペス性角膜炎にかかると、視力が低下したり、ひどい場合には失明することさえあります。小さな乳幼児の場合は、こどもが患部をこすったりひっかいたりしないよう、十分な注意が必要です。また、指しゃぶりをする乳幼児では、唾液から手指にウイルスが感染して、ヘルペス性ひょうそという手指の炎症を起こすこともあります。

 ◆アトピー体質とヘルペス◆
アトピー体質のこどもは年々増加傾向にあり、今や、乳幼児の4人に1人はアトピー性皮膚炎といわれています。アトピー性皮膚炎は、顔や手足に湿疹のような皮膚炎ができて、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。一般に、アトピー体質のこどもは皮膚の抵抗力が弱く、ヘルペスウイルスに感染すると、皮膚炎のあるところに水疱が広がりやすく、重症化する傾向がみられます。この時、まるで水ぼうそうのように水疱が広がることからカポジ水痘様発疹症と呼ばれています。アトピー体質のこどもが、ヘルペス性歯肉口内炎や口唇ヘルペスにかかった場合は、ウイルスが患部から別の場所へうつらないよう、十分な注意が必要です。また、アトピー体質だけでなく、あせもやおむつかぶれなど、慢性的な皮膚疾患がある場合にも、同じように注意してください。


☆治療法
現在、ヘルペスの治療には、ウイルスを直接やっつけるお薬が用いられています。「あれ、おかしいな?」と感じたら、早めに主治医に相談することが大切です。


☆ケア法
熱が高いとき
高熱が出たときは、水枕で頭を冷やすと同時に、同じような方法で、両わきの下を冷やしてあげるのも効果的です。ただ、一般に、赤ちゃんやこどもは、お母さんが思っている以上に熱に強いものです。また、熱を出すことは、体がウイルスと闘っている証拠でもありますから、無理に熱を下げる必要はありません。一番大切なのは、熱だけでなく、こどもの全身状態を総合的に観察することです。ただし、中には、熱に弱いこどももいます。水分もとれず、ふうふう苦しそうにしているとき、またひきつけを起こしやすい赤ちゃんなどには、早めに解熱剤を使う必要があります。

食べられないとき
ヘルペス性歯肉口内炎の場合は、特に口の中の痛みが強く、こどもは飲んだり食べたりするのを極端に嫌がります。無理強いせずに、こどもの好きな食べものや飲みものを、少しずつ何回かに分けて与えるようにしましょう。頻繁にぬるめのお湯やイソジンでうがいをすることは、ウイルスを洗い流して、口の中を清潔にする役割も果たしてくれます。

さわらないこと
かゆみがあると、こどもはどうしてもさわったりひっかいたりしてしまいますが、ウイルスのたくさんいる患部をさわった手で他の部分をさわると、今度は違う場所にウイルスが感染する恐れがあります。患部にはなるべくさわらないように、また爪を短く切ったり、手洗いを十分に行うなど、手を清潔にするよう心がけてください。また、赤ちゃんには手袋などをはめて、さわらないように工夫するのもいいでしょう。

日常生活の注意点
症状が出ている時期は、ウイルスの活動が非常に活発です。熱が下がり、見かけは元気そうでも、体力や抵抗力はかなり落ちています。症状が落ちつくまでは外出を控え、なるべく安静に過ごすよう心がけましょう。