おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とは


おたふくかぜ(=流行性耳下腺炎)は、ムンプスウイルスに感染することで発症します。感染力が比較的弱いため、感染しても症状がでない場合もあります。これを不顕性感染とよび、感染者の約2〜3割にみられます。とくに1歳以下の乳児では、不顕性感染が多いといわれています。
感染する年齢では、1〜2歳の乳幼児には少なく、3〜10歳の小児にもっとも多くみられます。ムンプスウイルスは、くしゃみや咳などでウイルスが飛び散る飛沫感染(空気感染)、接触感染でうつるため、保育園、幼稚園、小学校など、子どもがたくさんいる場所で流行する傾向があります。



☆症状
おたふくかぜの症状は、耳下腺部(耳の下、頬の後ろ側、あごの下)が腫れます。潜伏期間は、14〜24日ですが、感染から17〜18日ほどで発病することが多いようです。
一般的には片側からはじまり、1〜2日間で両側が腫れてきますが、片側しか腫れない場合もあります。左右同時に腫れることはめったにないようです。
最初の1〜3日間は、腫れている耳下腺部が痛みます。腫れと痛みがひどい場合は、食べ物をかめない、飲み込めないなどの症状があらわれます。耳下腺部の腫れは1週間〜10日間でおさまります。発熱は腫れとほぼ同時に起こりますが、小さな子どもではほとんど発熱することはなく、あってもあまり高くはなりません。年齢の高い子どもほど発熱しやすく、高熱を出すこともあります。子どもがよくかかる感染症のなかでは、比較的重い病気といえます。
こじらせると髄膜炎を引き起こす可能性も高いのですが、生命にかかわったり、重い後遺症を残すような合併症を起こすことはまずありません。



☆治療法
原因となるムンプスウイルスに対する特効薬はありません。症状に合わせた対症療法が行われます。薬としては、発熱、頭痛、耳下腺の痛みなどがある場合に解熱鎮痛剤が使われます。また、耳下腺などの腫れや痛みに湿布を使うこともあります。発熱や腫れがある間はなるべく安静にし、発熱による脱水症状を予防するために水分はたっぷりととるようにします。


☆予防法

おたふくかぜの流行を防止するには、生ワクチンの接種が唯一の方法です。病原性を弱めた弱毒ウイルスを用いて免疫をつけるのが生ワクチンで、麻疹(はしか)、風疹、ポリオなどのワクチンもこれにあたります。おたふくかぜのワクチンも生ワクチンで、1回の注射で効果があります。しかし、接種を受けてもおたふくかぜにかかる確立は5〜10%ほどあり、はしかや風疹のワクチン接種と比べて少し高い数字が報告されています。一般的な予防法としては、外から帰ってきたら必ずうがいや手洗いをするように心がけましょう。また、おたふくかぜにかかったら、少なくとも腫れが完全にひくまでは、外出を避けましょう。


☆家庭での看護

食べのもを噛むと、唾液が出て腫れた唾液腺が痛むため、牛乳やおかゆ、うどん、野菜スープなど、栄養があってさほど噛まずにすむ流動食を中心にし、アイスクリームやプリンなどの好みのものを食べさせましょう。辛いもの、すっぱいものなどの刺激物や、脂肪分の高いものは、唾液の分泌を促し痛みを増幅させるので避けるようにします。痛みが激しいようなら、医師に痛み止めなどを処方してもらいましょう。また、頭を痛がるなら氷枕で冷やしてあげると少し楽になります。


☆合併症
ウイルス性(無菌性)髄膜炎(ずいまくえん)

おたふくかぜの合併症で最も多いのが、ムンプスウイルスによるウイルス性(無菌性)髄膜炎です。症状の出ないごく軽いものを含めるとおたふくかぜの患者の約半数がかかっているといわれています。症状が出るのはおたふくかぜにかかったうちのおよそ10%ほどで、頭痛や発熱、嘔吐などの症状ですみます。とくに効果的な治療法はありませんが、安静にしていればほとんどが2週間ほどで治ります。

膵炎(すいえん)
重症なものはごくまれですが、軽い膵炎を合併することは多いようです。唾液腺の腫れから1週間目ほどで、みぞおちあたりが圧迫されるように痛む、気分が悪く嘔吐感がある、軽い発熱がある、などの症状が出ます。これ以上の重い症状はほとんどなく、約1週間で治ります。
腎炎(じんえん)
唾液腺が腫れだした10〜14日後に起きることがあります。致命的になることもごくまれにありますが、ほとんどが軽いもので、尿中にウイルスがみられる程度で症状が出ないことが多いようです。

おたふくかぜは一度かかるとからだの中に抗体ができるため、その後はおたふくかぜを発症することはありません。つまりおたふくかぜは、一度かかればその後はかからないということです。
おたふくかぜにかかったことがないと思われている場合でも、不顕性感染のため症状がでなかっただけで、実際は感染した経験のある方も少なくありません。おたふくかぜにかかったことがあるかどうかは、血液検査をし、ムンプス抗体を測定することで確認できます。耳下腺部の腫れ、発熱など、おたふくかぜが強く疑われる症状がある場合、ムンプス抗体検査は保険適用となります。しかしそれ以外の場合(とくに症状がなく、おたふくかぜにかかったことがあるかどうかの確認だけをする場合など)には、保険適用外となりますので、診察時にご相談ください。